PP#2~Simultaneous Linear Equations

PP#2~Simultaneous Linear Equations

二回に亘ってお届けしてきた事前準備を一旦終了して、本題の大規模疎行列の解法に入っていきます。先ずはその根幹をなす連立一次方程式について理解を深めましょう。ところで、中学で習った「方程式」という言葉の意味をご存知ですか。

俺も何の疑問も持たず使ってきましたが、改めて眺めてみると意味がよく分からない。

そこで調べてみると、中国の古算書「九章算術」の第八章に登場する「方程」という言葉に由来するんですね。

九章算術巻八

劉徽の註を引用すると、「程」は課程わりあてるという意味である。群物がさまざま入りまじれば、さまざまの数の並び方でその実情を告げる。ここで各行が比率をなすようにすれば、二物は二程わりあて、三物は三程のようにみな物の数だけ程をもち、並んで行をなすから、この計算法を「方程術しかくにわりあてる」と名付ける。分かったような分かんないような説明ですが?

中央公論社「世界の名著 続1 中国の科学」第八章に記載されている連立一次方程式の例題を解きましょう。

IMG_2434

問:

いま上禾三たばと中禾二たばと下禾一たばでは、実は三十九斗あり、上禾二たばと中禾三たばと下禾一たばでは、実は三十四斗であり、上禾一たばと中禾二たばと下禾三たばでは、実は二十六斗である。問う、上中下禾の実は、一たばそれぞれいくらか。

答:

上禾一たば、九斗と四分の一斗。
中禾一たば、四斗と四分の一斗。
下禾一たば、二斗と四分の三斗。

計算法:

なんだんね、これはと思われるかもしれませんが?順に追っていけば自ずと解けます。

\begin{bmatrix} 1&2&3&上\\ 2&3&2&中\\ 3&1&1&下\\ 26&34&39&実\\ 左&中&右\end{bmatrix}
$$中 \times3 \Downarrow$$
\begin{bmatrix} 1&6&3\\ 2&9&2\\ 3&3&1\\ 26&102&39\end{bmatrix}
$$中-右\times2\Downarrow$$
\begin{bmatrix} 1&0&3\\ 2&5&2\\ 3&1&1\\ 26&24&39 \end{bmatrix}
$$左\times3\Downarrow$$
\begin{bmatrix} 3&0&3\\ 6&5&2\\ 9&1&1\\ 78&24&39 \end{bmatrix}
$$左-右\Downarrow$$
\begin{bmatrix} 0&0&3\\ 4&5&2\\ 8&1&1\\ 39&24&39 \end{bmatrix}
$$左\times5\Downarrow$$
\begin{bmatrix} 0&0&3\\ 20&5&2\\ 40&1&1\\ 195&24&39 \end{bmatrix}
$$左-中\times4\Downarrow$$
\begin{bmatrix} 0&0&3\\ 0&5&2\\ 36&1&1\\ 99&24&39 \end{bmatrix}
$$中\times36\Downarrow$$
\begin{bmatrix} 0&0&3\\ 0&180&2\\ 36&36&1\\ 99&864&39 \end{bmatrix}
$$中-左\Downarrow$$
\begin{bmatrix} 0&0&3\\ 0&180&2\\ 36&0&1\\ 99&765&39 \end{bmatrix}
$$中\div5\Downarrow$$
\begin{bmatrix} 0&0&3\\ 0&36&2\\ 36&0&1\\ 99&153&39 \end{bmatrix}
$$右\times36\Downarrow$$
\begin{bmatrix} 0&0&108\\ 0&36&72\\ 36&0&36\\ 99&153&1404 \end{bmatrix}
$$右-中\times2-左\Downarrow$$
\begin{bmatrix} 0&0&108\\ 0&36&0\\ 36&0&0\\ 99&153&999 \end{bmatrix}
$$右\div3\Downarrow$$
\begin{bmatrix} 0&0&36\\ 0&36&0\\ 36&0&0\\ 99&153&333 \end{bmatrix}
$$左中右\div9\Downarrow$$
\begin{bmatrix} 0&0&4\\ 0&4&0\\ 4&0&0\\ 11&17&37 \end{bmatrix}

如何でしたか。

現代の解法:

$$3x+2y+\ z=39\ldots\ldots\ldots\ldots(a)$$

$$2x+3y+\ z=34\ldots\ldots\ldots\ldots(b)$$

$$ \ \ x+2y+3z=26\ldots\ldots\ldots\ldots(c)$$

$$(b)\times3-(a)\times2:5y+z=24\ldots\ldots\ldots\ldots(d)$$

$$(c)\times3-(a):\ \ \ \ \ \ \ \ 4y+8z=39\ldots\ldots\ldots\ldots(e)$$

$$(d)\times8-(e):\ \ \ \ \ \ \ 36y=153\ldots\ldots\ldots\ldots(f)$$

よって、

$$y=4\frac{1}{4}$$

同様にして、

$$x=9\frac{1}{4} , \ \ \ \ z=2\frac{3}{4}$$

中学校の教育では、三個の未知数に対して三行の連立一次方程式で表して、加減法で未知数を消去して解を求めていた。この方法に慣れ親しんでいるが、「九章算術」では現代の行列式の解法に近い記述方法で解かれているのは驚きだ。それも紀元前一世紀に書かれた数学書というのには驚きを通り越して感服する。

今回はプログラミングサンプル無しの寄り道でした。

続く

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