Studio Life~酒を切れない

Studio Life~酒を切れない

毎晩の飲酒はアルコール認知症・依存症のリスクを促すとの通説にとらわれて、一時白内障の術後二ヶ月間は禁酒したものの、飲酒は週4日(水、金、土、日)に控えているが依然として酒を切れない。しかし、飲酒の翌日は活力が出て体調が頗る良くなる経験をするので、体調や気分のすぐれない時などは一週間飲み通して体調の回復をはかることもある。通常焼酎乃至ウイスキー2〜3合を専ら水割りにして飲む。一番好きな樽酒日本酒やShiraz赤ワインは大事な機会に飲むことにしている。

自然科学系の学者には大酒飲みは少ないが、評論家の小林秀雄氏は夕方6時からが晩酌の時間だった事は良く知られている。先生の場合、晩酌は昼間の仕事の仕上げという意味で批評活動の大事な一環で、日中考え続けて疲れた頭を酒でほぐす厳粛な時間でもあった。

最近、評論家小林秀雄氏と数学者岡潔氏の対談録「人間の建設」に出会う。大学生の頃一時期、岡潔氏の著書を読みふけったものだが、この対談録については今まで知らなかった。本稿の最後に全文を引用するが、小林先生の云われることに納得できない箇所がある為、当時の日本酒の事情を調べると面白いことが判明。

現役時代は家で晩酌する習慣はなかったが、今や子供二人とも独立したので酒を絶ってまでも長生きしたくないのが本音。

両先生が対談した昭和40年は、戦後の米不足は解消したが依然として米の価格が高く、酒造業界では米に代わる安いアルコールに頼る「三倍増醸酒」全盛の時期であった。アルコール添加が過ぎると酒が辛くなる為、糖類も添加するようになり、日本酒は甘くてベタつく、悪酔いするとかまで云われたあの悪名高い「三倍増醸酒」である。

昭和42年から、アルコール無添加の醸造が始まり、オイルショックで生き残りをかけた酒造業界では、醸造用アルコールの添加量を減らした「本醸造酒」、更に高精米技術を生かした「吟醸酒」、「純米吟醸酒」、「純米大吟醸酒」の開発へと歩んでいく。

俺が日頃飲む安酒の焼酎、ウイスキーはアル添入であるが、一概にアル添入り酒が不味いとも思わない。寧ろ、精米に拘る高額の大吟醸はやり過ぎの面は否めないと思っている。

俺は樽酒の日本酒が最も好みで年末年始は必ず樽酒の瓶詰め日本酒で「去る年来る年」を祝っている。畢竟、俺は日本酒はお米の味だと思っている。一時は冷酒を好んだが、最近は専ら常温で純米酒の味覚を楽しむ。小林先生は「日本酒は燗にして飲むようにできている、燗にしてこそ味が映える」と言っているが、熱燗はアルコールが鼻につくので好まない。

「百薬の長」と云われる酒だが、年齢が高くなると若い頃に比べてアルコールを分解する能力が下がり酔いやすく飲み過ぎにはなり難いので禁酒にこだわる必要はないが適量が良いと云われる。しかし、飲酒はアルコール依存症と脳の萎縮による認知症リスクを伴うので不安が付きまとう。ボケや寝たきりになって妻や子供には絶対迷惑を掛けるような禍根は残したくない。

先日、図書館で解剖学者養老孟司氏と精神科医和田秀樹氏のPresident対談記事を読む。

  • そもそも、人間の寿命は医療の範疇を超えた栄養と遺伝が規定する部分が大きく、日本人の平均寿命がのびたのは医療の範疇ではないものの貢献が大きい。例えば、戦後米軍が配った脱脂粉乳によって栄養状態が良くなった為結核になる人が減り、日本人の平均寿命が50歳を超えた。ストレプトマイシンのお陰ではない。結核の後に日本人の死因の1位になった脳卒中は当時血圧が140〜150で血管が破れたが、タンパク質の摂取量が増えて血管が丈夫になったことで脳卒中が減少した。
  • 健康診断は当てにならない。健康診断に寿命を延ばす効果があるとしたら、戦中世代の男性の寿命の延びが女性以上でないとおかしい。ところが、戦後すぐの男女の平均寿命の差は2歳だったのに、今7歳に広がっていて女性の延びの方が大きい。具合が悪くなるときちんと体が教えてくれるから、「ちょっと調子がおかしい」と「体の声」が聞こえたときに病院に行けば充分ではないか。医者にかからない方が人は死なない。
  • コレステロール値が高くても気にしない。コレステロール値が高い人ほどガンになり難いデータもある。コレステロール値の低い人ほど免疫機能が落ちると云われている。小太りの方が元気で長生きするのがその証し。
  • 血圧が高くても気にしない。年をとると動脈の硬化によって脳に酸素や栄養が届くように圧を上げて血液をおくる必要がある。栄養状態のよくなった今、多少血圧が高くてもそう簡単に脳の血管は破れない。年齢プラス90位(70+90=160)の血圧値であればまず問題ない。
  • 年を取ってからガン治療をすると体が弱る。お年寄りが胃の3分の2も取ると栄養状態が悪化して体力が落ちてしまう。残せば転移のリスクは高まるが、転移して広がるまでに時間がかかる。ガンだけを切って体力を温存する選択肢があっていいはずです。
    亡き父も還暦の頃胃がん治療で胃を摘出したが、体が酷く弱ったのを眼にしている。
  • タバコやお酒を取り上げるのもたいていはパートナーですからね。本人が「好きに死なせてほしい」って言ってもパートナーが「それじゃ困る」と。医者よりも家族との付き合いが大切。医者と家族との折り合いも含めて、常識を方便として使いながら、適当に生きるのが良いんじゃないか。完璧主義を捨てればQOL(Quality of Life)は上がる。

まさに目からウロコが落ちる内容。
その他興味を持った関連記事は、「ガン5つの克服法」である。以下抜粋する。

  1. 毎日良質な睡眠を充分とる
  2. 朝起きたら30分から一時間散歩をする
  3. 朝の光を浴びることでセロト二ンが増え、それが夜、良質の睡眠に必要なメラトニンに変わっていく。運動することでガンに嫌いな熱と酸素を体内に取り込める。
  4. HSP(Heat Shock Protein)入浴法で体をしっかり温める
    ガンは冷えを好み温かい環境を嫌う。ガン細胞は42.5度以上で死滅すると云われる。
    この効果については疑問であるが、冷えは万病の元のみならず免疫力を低下させる大きな原因の1つであると信じている。温泉街に住んでいるにもかかわらず風呂は好まないので冬季は体が冷え切っている。還暦をこえてから老化の証しの冷え性になったので一層つらい。
  5. 「まごわやさしいヨ」の食品をとる
  6. 一笑いで3000個のガン細胞を消滅する
    認知症になる確率は笑わない人は笑う人に比べて4倍高い。

以後、和田先生、故藤誠先生、故中村仁一先生の著書を積読。
自分の考えに似通っていることに勇気づけられる。

俺の健康法としては、

  • くよくよせず、我慢せず、無理せず、折り合いをつけながら、適当に生きる。
  • 興味を持てるワクワクする生きがいを見つけてHappyな気持ちを持つ。
  • 体が欲するままに、食べたいと思うものを口に入れる。
    塩分や糖分の摂取を控えるよう云われるが、老いると舌の味を感じる機能「味蕾(みらい)」が減少する為、濃い味付けを好むようになるとも云われる。
  • 社会活動を断つ。近所(町内)とは一切縁を切る。
    近所付き合いをすると妬み等煩悩に囚われてしまう恐れが有る。

、独りよがりな信条ではある。

参考)人間の建設 国を象徴する酒

小林 岡さんはお酒がお好きですか。
岡 自分から飲まないのですけれども、お相伴に飲むことはあります。今日はいただきますよ。
小林 ぼくは酒のみでして、若いころはずいぶん飲んだのですよ。もう、そう飲めませんが、晩酌は必ずやります。関西へ来ると、酒がうまいなと思います。
岡  酒は悪くなりましたか。
小林 全体から言えば、ひどく悪くなりました。ぼくは学生時代から飲んでいますが、いまの若い人たちは、日本酒というものを知らないですね。
岡  そうですか。
小林 いまの酒を日本酒といっておりますけれども。
岡  あんなのは日本酒でありませんか。
小林 日本そばと言うようなものなんです。昔の酒は、みな個性がありました。「菊正」なら「菊正」、「白鷹」なら「白鷹」、いろいろな銘柄がたくさんございましょう。
岡 個性がございましたか。なるほどな。
小林 店へいきますと、樽がずっと並んでいるのです。みな違うのですから、きょうはどれにしようか、そういう楽しみがあった。
岡  小林さんは酒の個性がわかりますか。
小林 それはわかります。
岡  結構ですな。それは楽しみでしょうな。
小林 文明国は、どこの国も自分の自慢の酒を持っているのですが、その自慢の酒をこれほど粗末にしている文明国は、日本以外にありませんよ。中共だって、もういい紹興酒が飲めるようになっていると思いますよ。
岡  日本は個性を重んずることを忘れてしまった。
小林 いい酒がつくれなくなった。
岡  個性を重んずるということはどういうことか、知らないのですね。
小林 その土地その土地で自然にそういうものができてくるのですから、飲み助はそれをいろいろ飲み分けて楽しんでいるわけでしょう。
岡  ……
小林 灘(なだ)に「白鷹」の本舗があります。そこに鉄斎さんの絵がたくさんあるので、私は見にいったことがあります。鉄斎さんの絵も見たかったけれども、本舗でいい酒も飲みたい。そこで御馳走になりましたが、うまくないのですよ。本舗の御主人は老人でしたが、私は、ちょっと甘いなと言っちゃったのです。そうしたらおじいさんが、だめですよ、あんた、そんな悪口をおっしゃるけれども、このごろ甘くなったのは、酒だけじゃござんせんでしょう、と言う。その通りですよ。昔みたいなうまい酒はできなくなった。本舗がそう言うのですから確かです。ぼくらが若いころにガブガブ飲んでいた酒とは、まるっきり違うのですよ。樽がなくなったでしょう。みんな瓶になりましたね。樽の香というものがありました。あれを復活しても、このごろの人は樽の香を知らない。なんだ、この酒は変な匂いがするといって、売れないのです。それくらいの変動です。日本酒は世界の名酒の一つだが、世界中の名酒が今もって健全なのに、日本酒だけが大変動を受けたのです。
岡  香をいやがるのですか。
小林 杉の匂いがしますから、だめなんです。そんなふうに口が変った。ソヴェットに行ったって、ウォトカはコンミュニスムの味はしやしない。日本は、その代り、ウイスキーとか葡萄酒がよくなってきた。日本酒の進歩が止まって、洋酒のイミテーションが進んでいる。
岡  日本酒を味わうのと小説を批評するのと、似ているわけですね。
……

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