JAT〜憧れと挫折のYear 2021

JAT〜憧れと挫折のYear 2021

五竜岳の頂上に立って、深い谷を隔てた直ぐ真向こうに、鹿島槍の峰が流れる薄雲の谷間に隠見するのを望んだ時であった。ああいう光景はどんな天才な絵描きにも思いつかね、自然の傑作であろう」深田久弥選集 百名山紀行 ヤマケイ文庫

昨年剱岳の山頂で五竜岳、鹿島槍ヶ岳を遠望した時、次回の山行ターゲットを後立山連峰と決定。次回は五竜岳頂上から剱岳と鹿島槍の秀麗な吊尾根の姿を愛でるのだ。難所のキレット超えにも挑戦する五竜岳、鹿島槍ヶ岳へのテント泊縦走計画を立てる。頓に体力の減退を実感する中、果たして成就できるか自信がなく不安なのが本音。今年の山行録をお届けします。Last year, in a panoramic view of Mt.Goryu and Mt.Kashima-Yarigadake at the summit of Mt.Tsurugi, I underpin to target the Ushiro-Tateyama mountain range for the next mountaining. In return, I wish to admire Mt.Tsurugi and a beautiful hanging ridge of Mt.Kashima-Yarigadake from the summit of Mt.Goryu. Since realizing that my physical toughness is much declining recently, I am not confident of concluding the mountaining with the heavy tent related equipments. I wish to report this year’s mountaining.

日本アルプスへの初見参が白馬岳であった人は少なくないだろう。高峰へ初めて人を案内するのに、好適な山である。大雪渓があり、豊富なお花畑があり、眺望がすこぶるよい。中略。白馬岳は槍ヶ岳と共に北アルプスで最も賑わう山である」日本百名山

後立山連峰の白馬岳は槍ヶ岳と共に北アルプスの盟主的な存在であるが、俺にとっては何故か気乗りのしない対象である。天の邪鬼な性格に起因するのかも知れない。

それに対して五竜岳は、昨年の剱岳からの遠望で、鹿島槍よりも低いながらも、一際威風堂々とした山容が印象的で、山行のターゲットとして常に念頭にあった。更に、五竜岳から後連峰立山縦走中の難関である八峰キレットを超えて鹿島槍に抜ける縦走路は山行を目指す者としては羨望のターゲットでもある。

昨年の剱岳からの後立山連峰

北安曇から後立山連峰を眺めると、高さは特別ではないが、山容雄偉、岩稜峻嶺、根張りのどっしりした山が目につく。それこそ大地から生えたようにガッチリしていて、ビクとも動かないと言った感じである。これが五竜岳だ。北は大黒の岩峰を経て唐松岳へ続き、南は八峰キレットの嶮によって鹿島槍岳に連なり、昔は後立山連峰縦走中の難関であった」日本百名山

昨年の内に大まかな3泊4日の縦走コースは思い描いていたが、上り口と降り口を何処にするかが課題として残っていた。バイクの駐輪を考えると双方できるだけ近い方がベターだ。しかし、妙案などなく、成るべくコストを抑えられる場所に限定するしかない。最終的に黒菱林道の終点にある黒菱駐車場にバイクを駐輪し、縦走後大谷原で下山、徒歩数時間をかけて黒菱に帰る道程に決定。この場合リフトを利用する事も可能だ。要の五竜岳山荘のテント場がコロナ禍の余波で完全予約制である事が問題。何時もは天気予報を睨んで具体的な日程を決めるが今回はテント場の空き具合で日程を決める。天気は運任せと言った処か、俺も精神的に成長したもんだ。

昨年同様、山行準備鍛錬の為始め、15キロのリュックを担い図書館迄の片道1時間15分の徒歩鍛錬を1週間続ける。今回は昨年膝を痛めた苦い経験からアンクルウエイトは無し。気分的に準備は万端だが、体力的に自信はない。

いざ白馬村へ

毎回旅に出る時必ずトラブルに出くわすが今回も例外でなかった。予兆はあったのだが、キャブのDebrisでエンジンがStallする現象に見舞われたのだ。家を出て数キロでトラブルに遭遇。その内回復するかと思いきや全く改善されず20km先で一旦戻る事を決断。クタクタで戻るやな、早速キャブを分解。案の定メインジェットにDebrisが詰まっている。パーツクリーナーとエアーでブローして導通を確認。更にタンク洗浄すれば完璧だがそんな余裕はない。後立山連峰のテント場は完全予約制で生憎予約で満員の状況なのだ。

果敢にも2時間後に再出発。予定より5時間遅れ。

何事もなく順調に国道8号線を北上する。糸魚川付近でオイル切れの赤ランプが点灯。トラブル?続きだが、何気なく目に入った沿線のコメリでオイルを購入。聞いたことない商品だが、無いよりはまし。

オイル補充

糸魚川で南下する。白馬は間近だ。スノーシェッドを抜け、林道を登って、黒菱駐車場に到着。8時間かかりもう夕暮れ時だ。

テントは出さず駅舎の軒下を拝借。

晩飯は定番のカツ丼。夜は肌寒く寝袋に包まって眠る。虫、蚊にも襲撃されず快眠。

初日の寝床

2日目

3時半目覚め、4時半出発。

リフトの営業は7時以降故、遊歩道を登る。三方池山荘の宿泊者から久し振りの晴れ間と聞く。確かに白馬三山がクッキリと見える。

縦から見た白馬岳は、横から見たのと、別人の観がある。東側が鋭く切れ落ち、キッと頭を持ちあげたさまは、怒れる獅子といった感じをいつも私は受ける。颯爽たる姿である」日本百名山

深田久弥の文で雄姿に思いを馳せる。

登り始めは何とかザック重さに耐えてきたが、次第に腰に堪えるようになり脚の動きが鈍る。1週間トレーニングを積んできたが、今回はちょっと勝手が違う。15kgのザックは耐えられない程重く感じる。

高度を増すに従いガスがかかってきて、一層気力が萎える。

体力的に大分疲れているので更なる登りにうんざりとするが、覚悟を決めて淡々と登る。

八峰キレットを抜けて鹿島槍迄行けるか。下りのキレットは疲れのピークが高まる午後遅く抜ける事になるが、重い荷物を背負った状態では一段とリスクが増し、素人の俺には抜けるのは難しいかろう。悲観的な事ばかりが頭をよぎる。

何とか、図書館通いの成果が実ってコースタイム5時間程で分岐に到着。

ザックをデポし、唐松岳山頂に向かう。体が軽い。

頂上からの視界はゼロ。この時期は9時を過ぎるとガスが発生して視界は不安定となる。下山者から朝方は360度のパノラマビューと聞く。富士山、日本海が遠望できたとか。残念だ。

立派な五竜岳を見たい人は、唐松岳の上から眺めることだ。そこからの五竜は壮大である。越中側の餓鬼谷の底から頂上まで一気にせりあげた姿勢は、実に堂々としている」日本百名山

10時半、唐松岳山荘に到着。今日中に五竜岳山荘迄行く予定であったが、唐松岳のテント場が営業中である事を聞いていた。ダメ元で事情を説明し泊めてくれるかどうかお願いする。幸いにも快諾を得る。有り難い。幕営料は2,500円と高い。

明日は予定通り鹿島槍迄山行を決行するか、それとも五竜に登ってから下山するか、悩みながら長い午後を悶々と過ごす。

結局、隣のテントの不帰の儉を抜けてきた熟練者のアドバイスを受け、当初の計画を断念。鹿島槍の登山は仕切り直すとして、五竜岳をピストン登山し、登ってきた唐松から八方尾根を下る事を決断。

今回もカレー尽くしの晩飯で満腹感に浸り、明日に向けて気合を入魂。

3日目

夜半過ぎ雷も轟く。濃霧だ。

片道3時間半かかるので、暗闇の4時半に出発。真っ暗の中を進む。山荘を出てすぐ岩場の頂きで行き道を失い道に迷う。不安になる。暗闇で迷うとロクな事がないので、観念して追従者が来るのを待つ。

ツキが戻ってきた。遠くで若い女性の声が微かに聞こえ、霧の中ヘッドライトがチラチラする。二人組の女性陣はここは初めてと云いながら軽快に進んでいく。気兼ねせず追従する。岩場の頂きから下りへの鎖場への取付きの辺りで迷ったようだ。岩場を越える頃は明るくなって不安もなくなる。後程五竜岳への唯一の難所の牛首で、霧で一面が見えないがかなり高度感があると聞く。

荷が軽いので思ったより快調に進む。コースタイムより若干早く五竜山荘に到着。ソーセージとアミノバイタルで気合を入れて登頂へ向かう。気力体力充分、疲れは感じない。

鎖もあるが登りとしては単調。50分程で頂きに到着。

絶景とまでいかないが、剱岳、立山連峰が見える。鹿島槍も美しい吊尾根を雲の谷間に覗かせている。

鹿島槍は私の大好きな山である。高い所に立って北アルプス連嶺が見えてくると、まず私の眼の探すのは、双耳峰を持ったこの山である。北槍と南槍の両峰がキッとせり上がっていて、その二つをつなぐ、やや傾いだ吊尾根、その品のよい美しさは見倦きることがない」日本百名山

誰もいない山頂でお決まりのメンチカツパンを食う。何度食っても美味い。それにしても五竜山荘の天水は実に不味い。薬品を入れてあるようだ。登頂を果たした感激はなく、20分程滞在して下山する。

途中牛首を越える。確かに高度感はあるが恐怖感は感じない。

予定のタイムで唐松岳山荘に着く。休まずにデポしたリュックを拾い、一路下山へ。

なんの変哲もない退屈な下り道だ。八方池を越えると脚の動きが一段と緩慢になる。経験上10時間を超えると脚力が限界に達する事は分かっている。景色を楽しむ余裕は全くなし。コースタイムを大幅に超え4時間もかけてヘトヘトで黒駐車場に戻る。重いリュックを担いでのキレット超えは無理だったと反省する。

気にしていたRZ50は無事。寝床の道の駅白馬へ向かう。

寝床で鹿島槍登山口のルートを考えるうちに、鹿島槍の仕切りを諦める。

鹿島槍は登山の対象ではなく、愛でる山だと思い直したのだ。若干気落ちしている自分を慰める。

道の駅白馬

4日目

亡き母は善光寺参りツアーで途中迄行ったものの、先方の都合で詣でが取り止めになった事を悔やんでいた。白馬迄来た機会に立ち寄る事にした。1時間半程山道を走ればいける。

平日にも関わらずなかなかの賑わい。仏閣自体は何ら感慨も刺激も受けないが、母が生前熱望していた真っ暗な回廊を通り、中程にある極楽の錠前を探り当てて秘仏の御本尊と結縁するお戒壇巡りが目的だ。

母からは吊り輪を触りながら真っ暗の中を周回する仕組みと聞いていたが、極楽の錠前を探る仕組みになっていた。最初は錠前が分からず触れることが出来なかったが、再度トライして漸く握る事ができる。何ら有り難みが感じられない空気感であるが、趣向としては成功しているのかもしれない。俺れとしては母が喜んでくれれば良いだけだ。

史料館も閲覧したが、見るべきものなし。何故江戸時代善光寺詣でがポピュラーだったか分からないまま早々に帰路へ。

4年前日本一周の折泊まった富山城址公園で夜を過ごす。コロナ禍にもかかわらず4年前と全く変わらず。久し振りにビールを飲んで落ち着く。

寝床 富山城址公園

早朝5時城址公園を後にし、8時に無事帰宅。

何事も無く生還できてホッとする。オリンピックの閉会式も間近だ。

総括

今回は意気込みのわりには縦走は2座のみと低調、寂しい結果に終わる。
五竜岳の登山自体は単調で面白みにかける。何故か唐松岳の方が気に入った。

負け惜しみではないが、重いリュックが無ければ今回の縦走自体は大した事は無かろう。改めて今回の敗退の要因を振り返ってみると、昨年の薬師平、三俣、雲ノ平の縦走路は距離的には長いがアップダウンの少ない道程であった事も手伝って完遂できたのではないかと考えている。確かに昨年に比べて肉体的な衰えは実感しているが、

  • 唐松岳上りが略コースタイムである
  • 五竜岳ピストン往復時間はコースタイムより若干速い

等を鑑みると、それ程脚力が落ちたとも思えない。冷徹に反省すると、体力的な要素よりも

  • そもそも実力に見合わないStretchな計画ではなかったか?
  • 難所のキレットを重い荷物を背負って越える行為に対して慣れない初心者として心理的な圧迫はなかったか?

寧ろこれらが今回の敗退の主要因ではないかと思料している。

高々15kgの荷物を背負えなくなった事は、危惧していた現実がとうとう来たかと諦めの納得感の方が強い。たった一年でテント泊から撤退とは情けないが如何ともし難い。今迄は年甲斐もなく勇み足の山行に憧れ挑戦していたとも反省。これからは年相応に山荘に泊り楽しむ山行の姿を目指したい?

今年の夏はちょっと違う。梅雨明け10日間は夏日が多かったが、台風の来襲もあって8月中旬頃から天気が安定しない。膝の筋肉痛はすぐに治ったが、パソコを打つ姿勢が悪かったのか、ぎっくり腰に悩ませられる。完治に10日も要する。更にバイク走行で重大な現実に直面する。近いうちに報告することになると思うが、今年の山行は2座で終わりの公算が高いかな。

以上

補遺:タンク洗浄

帰宅後、再度タンクの洗浄を行う。前回は不完全であった。デリカで用いたタンク錆取り廃液を再利用する。廃液の最後は泥水が出てきたので完全に綺麗になったかどうかはイマイチ自信なし。

一週間後エンジンをかけるが直ぐに失火する。何度やってもエンジンがかからない。キャブの詰まりが完治していないようだ。気を取り直してキャブを再度分解すると泥のようなガソリンが出てくる。エアーで洗浄して給油口からも泥水が排出されないことを確認してから取り付ける。

今度は一発でエンジンがかかる。その後異常なし。何とか泥が切れたようだ。

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